「みんなの図書館」2001年6月号掲載原稿


目次

  1. はじめに
  2. 大阪府立中央図書館の視覚障害者に対する情報機器を用いたサービス
  3. 蔵書目録CD−ROM版の音声対応
  4. IT講習
  5. ホームページでの情報提供
  6. 図書館のコンピュータシステムの音声対応
  7. 終わりに
  8. 視覚障害者用パソコンとソフトウェア、アクセシビリティ関連のホームページ

1.はじめに

近年のIT化は公共図書館においても大きな影響をもたらせている。業務端末・利用者端末の整備、インターネットでの図書館情報の提供、Web OPACの提供、利用者へのインターネットの館内開放、館内LANの整備などが、その中心であると言えよう。

IT社会と言われる現在、全ての国民が均等に情報を得られるような方策が必要である。公共図書館で情報通信を利用したサービスも、障害者・高齢者をはじめ、全ての住民が等しく情報を得られるような配慮が望まれる。既に、ホームページのアクセシビリティについては、以前述べたので、今回は、大阪府立中央図書館での情報機器を用いた視覚障害者に対するサービスを紹介して行く中で、今後、公共図書館が視覚障害者に対するサービス面、情報提供面での方法と配慮について考えるべきことを報告する。

2.大阪府立中央図書館の視覚障害者に対する情報機器を用いたサービス

大阪府立中央図書館が視覚障害者に情報機器を用いたサービスを開始したのは2000年5月のことである。この時、デスクトップパソコンと点字ピンディスプレイ、画面音声化ソフト、音声読書システム、ホームページ音声読み上げソフトを導入した。

5月からの5ヶ月間は試行期間と位置づけ、来館可能な視覚障害者に対して、

  1. 画面音声化ソフトの利用
  2. 画面拡大ソフトの利用
  3. 音声読書システムの利用: これはパソコンとイメージスキャナーを接続し、スキャナーの上に活字の本を置き、簡単な操作で音声で本の内容を読み上げてくれるもの。一般書や文庫本などで比較的レイアウトの単純なものは、ほぼ正確に読み上げてくれるが、新聞や広告などレイアウトの複雑なもの、図・表などはうまく読むことができない。利用者からは「活字の本が独力で読めることができ、好きな時に自由に読めるのがよい」との評価である。また、簡単なものはパソコンで、複雑なものは対面朗読でと、利用者が本に寄ってサービスの受け方を判断できるのも大きなことである。
  4. パソコン通信を利用した府立図書館蔵書検索: Windows用のパソコン通信ソフトと音声化ソフトを併用して、大阪府立図書館の蔵書検索を利用者に行って貰っている。大阪府のパソコン通信での蔵書検索は、それほど使いやすいものではないが、音声で本の所蔵調査が独力でできることは利用者にとって大きなことであった。今までは職員に遠慮しながら本を探して貰っていたのが、自分で探すことができるということで、利用者のプライバシーの面からも非常に大きなことである。

      これらの、サービスを2000年5月から9月まで実施してきた中で視覚障害者にパソコンを利用したサービスを本格的に開始して行くことが必要と感じた。

      そこで、大阪府立中央図書館では、「視覚障害者用パソコンシステム利用サービス実施要領」を2000年10月に策定した。この要領の目的は視覚障害者へのパソコンシステム利用サービスを実施するにあたり必要な事項を定め、もって視覚障害者の図書館利用の増進を図ることである。

      サービスの内容として第6条で、「利用者は画面音声化ソフト、画面点字化ソフト、画面拡大ソフトを利用し、下記のサービスを利用することができる」としている。

      1.  OCR(光学的文字読取装置)を用いての活字図書の利用
      2.  ホームページの閲覧と検索
      3.  OL−NETを利用しての蔵書検索
      4.  OL−CDや各種図書館所蔵のCD−ROM・電子ブックの利用
      5.  点訳ソフトの利用
      6.  その他、視覚障害者用ソフトの利用

      この中で、特に注目されるのは「ホームページの閲覧」と「各種図書館所蔵のCD−ROM・電子ブックの利用」である。

      ホームページの閲覧に関しては、一般への開放に先駆け、視覚障害者に対しての開放を先行実施した。これは、活字書を独力で利用困難な視覚障害者に対してインターネット上のコンテンツを図書館資料と位置づけ利用して貰うという趣旨である。出版情報や本の検索、視覚障害者が不得意とする資料を当たって調査するという調べものに多く活用されている。

      視覚障害者に対してのCD−ROM辞書の利用は、2001年4月から本格的に実施している。「広辞苑」第5版(岩波書店)、「岩波=ケンブリッジ世界人名辞典」(岩波書店)、「岩波生物学辞典第4版」(岩波書店)、「最新医学大辞典第二版 画像増補版」(医歯薬出版)、「心理学辞典」(有斐閣)、「新英和・和英中辞典 15000語音声付き」(研究社)、「CD-ROMスーパー・ニッポニカ」総合版(小学館)を画面音声化ソフトとCD−ROM検索ソフトを利用して使っていただいている。点字にすると100冊にもなる辞書が1枚のCDに収まり、検索も容易であるため、視覚障害者から評価いただいているサービスである。

      視覚障害者のパソコン利用に際しては、図書館職員の指導・サポートを受けることができるようになっている。初心者にとっては、一人では利用困難な場合でも職員が少し手助けすることで、図書館が利用しやすいものになる。

      3.蔵書目録CD−ROM版の音声対応

      大阪府立図書館では、CD−ROMの蔵書目録を3年連続で作成しました。今年3月には、「大阪府立図書館蔵書目録和図書編(OL-CD2000年版)」として提供開始しました。

      今回の蔵書目録は、大阪府立中之島図書館・大阪府立中央図書館2館の和図書の所蔵データをCD-ROMの形で作成したものです。1903年4月より2000年12月末までのおよそ91万書誌を納めたものです。

      過去2回の蔵書目録は視覚障害者の人が音声で全く利用できるものではありませんでした。今回、視覚障害者である私が開発・評価に全面的に協力し、視覚障害者の人もWindows画面音声化ソフトで利用できるものになりました。

      CD−ROMでの蔵書検索はインターネットのように、回線に接続せず、パソコンがあれば検索できるので、手軽さの面からもよいものと思います。利用者も自分で音声で検索し、読みたい本を見つけて、印刷したりフロッピーに入れて本の請求を職員に行うことができるのがよいとのことです。

      現在、テキスト形式、点字形式のマニュアルも作成し、多くの視覚障害者に宣伝し、利用していただいている所です。今回、蔵書目録CD−ROM版を音声対応にしたことは、図書情報を得にくい視覚障害者にとって大きなことであります。今後も、利用者からの意見を聞き、改良して行きたいと思います。なお、視覚障害者の蔵書目録の直接の利用と視覚障害者の利用に限っての各図書館を通じての協力貸出には大阪府立中央図書館対面朗読室が担当しております。

      4.IT講習

      平成12年度の国の補正予算でIT講習推進特別交付金が創設されました。その中で、「障害者に配慮したパソコン設備の整備についても対象とする」とあり、この場合は別途予算措置が行われるとのことでありました。

      大阪府立中央図書館では、視覚障害者用の機器整備に関しての予算要求を決め、視覚障害者職員である私が予算要求書を作成しました。その結果、何回かの予算作成・訂正を繰り返し、障害者に配慮した講習ができるだけの予算措置を受けることができました。

      パソコンでは、ノートパソコン、テンキー、マウス、追加メモリーなど10セット

      周辺機器では点字ピンディスプレイとスキャナーを10セット、墨字・点字プリンターを1台

      ソフトでは、画面音声化ソフト、画面拡大ソフト、音声ワープロソフト、音声ホームページ閲覧ソフト、音声メールソフト、点字変換ソフト、点字読み取りソフト、音声読書ソフト(OCRソフト)など、10セット予算化されました。

      7月から来年の2月にかけて視覚障害者を対象としたIT講習会を開催します。音声化ソフトの使い方、音声での文書作成、音声でのホームページ閲覧、音声でのメール送受信、音声読書ソフトの利用が講習の内容になります。一般の講習は1講座で12時間ですが、音声で利用するということで時間も必要とのことから20時間の講習になります。講習は講師一人、サポートの人員4人、合計5人で8人の受講者に対応します。これは、視覚障害者の利用にはキーボード操作、画面情報の確認など、サポートの必要なことが多いからです。

      講習は日本ライトハウス盲人情報文化センターに2講座、全国視覚障害者インターネット接続支援連絡会(ASV)に2講座担当いただきます。

      上記の講習内容に加えて視覚障害者のIT講習には、

      1. プレクストークやビクターリーダーなどデイジー機器の操作講習
      2. パソコンを使ってのデイジーソフトの講習
      3. 点訳ソフトの講習
      4. パソコンを使っての漢字学習
      5. CD−ROM辞書の利用
      6. その他、視覚障害者ソフトの利用

          が上げられます。時間的制約と予算的制約から今回はそこまではできませんが、今後、各地の公共図書館などで行われなければ行けない内容であると思います。

          今回の国の予算措置に関しても障害者に関する講習や機器購入に関して国がビジョンを持っていなかったことは非常に残念です。視覚障害者職員がいたり、障害者サービスを積極的に取り組んでいる図書館は十分な予算要求から予算措置を受けられ、地方の図書館では予算措置を受けられないのでは、視覚障害者の情報格差をさらに生むことになります。このことは、今後の課題であると感じております。

          5.ホームページでの情報提供

          既に、「みんなの図書館」1999年5月号で述べているので、今回は詳しくは述べないこととします。

          大阪府立図書館でも2001年7月にホームページを解説することで現在準備をしております。ホームページも技術の進歩が急速で新しい技術がどんどんと使われ始めています。視覚障害者用の音声ホームページ読み上げソフトは、それら新しい技術への対応が遅れており、利用できない図書館ホームページも多くなっています。

          大阪府立図書館のホームページがほんとうに視覚障害者に利用できるのかというと今から私はとても不安です。特に蔵書検索についてはOPACのパッケージで決まってしまう部分が多く視覚障害者対応にするとカスタマイズという新たな料金が発生するからです。これに関してはパッケージを作っている大手の会社を動かすしかないなあというのが現状です。現に3月末にTAOの事業で大阪府内の図書館の横断検索の実験画面を音声で使ってみたら使えない部分も多かったからです。Web OPACのアクセシビリティについて、以前書いている人が図書館にいながら、こんなことでは先が思いやられてしまいます。  蔵書検索では、障害者には郵送貸出の予約が検索画面からできること、検索結果の点字目録作成機能、検索一覧画面のシリーズ名、著者名、出版社名などからの再検索や検索結果からTRCのホームページの改題ページへのリンクなどが必要かと思います。

          6.図書館のコンピュータシステムの音声対応

          大阪府立図書館では、業務端末も利用者端末も視覚障害者が使うことができません。業務端末の音声対応は視覚障害者職員が貸出、返却、予約、受入業務を行う上で早期に必要なことであります。カウンター業務ができれば多くの視覚障害者が障害者サービス以外の業務に従事できる可能性が広がり、今後の障害者雇用の面からも大きなことであります。

          利用者OPAC端末の音声化は4月に開館した、千葉市立中央図書館で先日、視覚障害者専用OPAC端末をみることができました。これは、NECの障害者用の利用者端末で、アメディアボイス・サーフィンという音声ホームページ閲覧ソフトで動作していました。書名・著者名からの検索しかできないこと、所蔵館名や所蔵館の詳細情報が表示されないこと、貸出状況が表示されないこと、音声ガイドが不十分であることなど、まだまだ、低機能なOPAC端末であると思います。

          本来、利用者端末はだれもが利用できるように開発することが原則であり、例え、高齢者であれ、視覚障害者であれ、聴覚障害者であれこどもであれ、同じように同じ機能を利用できるものでなければなりません。今回のように視覚障害者用だからと行って専用機で低機能なものを提供するというメーカーの考え方を改めて行くことも課題であると思います。そして、将来的には健常者も障害者も同じ機器で利用できるような端末が開発されて行く方向に進むことを望みます。

          7.終わりに

          今回は、視覚障害者である私が大阪府の一般枠司書職として大阪府に採用され、1年間で視覚障害者に対するIT技術を用いたサービスの実践を中心に書かせていただきました。

          まだまだ、これからの部分も多くありますが、公共図書館を視覚障害者がいつでも楽しく、気軽に利用できるような図書館、そんな図書館を今後も目指して行ければと思います。

          今後、多くの公共図書館が視覚障害者に対してコンピュータ技術を活用したサービスを積極的に取り組んでいただければと思います。

          8.視覚障害者用パソコンとソフトウェア、アクセシビリティ関連のホームページ

          今回の記事中にでてきた視覚障害者用パソコンとソフトウェアについては下記のホームページに情報があります。

          1.小田浩一ほか.視覚障害者用アクセス技術製品データベース.東京,東京女子大学,(参照2001-04-10).
          <URL:http://www.twcu.ac.jp/~k-oda/AccessBlind/AccessTechBlind.html>

          2.こころリソースブック編集会.こころリソースブック.香川,香川大学,(参照2001-04-10).
          <URL:http://www.kokoroweb.org/index.asp>

          3.杉田正幸.視覚障害者に利用可能と思われるWindowsソフトウェア一覧.大阪,杉田正幸,(参照2001-04-10).
          <URL:http://www.saturn.dti.ne.jp/~sugita/soft.html>

          視覚障害者にホームページで情報を提供するための配慮次項については下記のホームページを参照してください。

          4.杉田正幸.視覚障害者の情報アクセス:電子メディアへのアクセスの現状と課題(公共図書館を中心に).みんなの図書館.No.265, p.27-42 (1999)
          <URL:http://www.saturn.dti.ne.jp/~sugita/digital.html>

          5.日本IBM.バリアフリーの扉.東京,日本IBM,(参照2001-04-10).
          <URL:http://www.ibm.com/jp/accessibility/>

          6.World Wide Web Consortium(W3C).Web Accessibility Initiativ.Cambridge,Massachusetts,W3C(MIT,INRIA,keio),(参照2001-04-10).
          <URL:http://www.w3c.org/wai/>

          7.Webアクセスを考える会.Webアクセスを考える会ホームページ.Webアクセスを考える会,(参照2001-04-10).
          <URL:http://thinkman.cup.com>

          (すぎた・まさゆき/大阪府立中央図書館)


          杉田正幸.IT時代の視覚障害者サービス:大阪府立中央図書館でのサービスを中心に.特集図書館とIT.みんなの図書館.No.290, p.40-47 (2001)



          Copyright(C)2004 杉田 正幸(Masayuki Sugita)
          最終更新日:2004年7月30日