「ITの活用と図書館サービス」

このページでは、2004年 3月28日(日) 国際障害者交流センター(ビッグ・アイ)で開催された、第1回共に生きる障害者展/文化・芸術展で職場の体験発表、就職までの経緯などを中心に発表した「ITの活用と図書館サービス」の内容を資料から紹介いたします。



1.自己紹介と就職までの経緯

1993年〜1996年: 按摩・マッサージ・指圧師、鍼師、灸師として病院に勤務。
※ パソコンを使うようになり、情報処理関係の事柄やパソコン通信等に対する興味を持った。特に図書館ネットワークに関心を持ち、司書の仕事に就きたいと思うようになった。
1996年〜1999年: 情報処理の勉強のため、筑波技術短期大学情報処理学科で学ぶ。同時に近畿大学通信教育で、司書資格取得のための勉強を行う。
※ この頃から、なごや会(公共図書館で働く視覚障害職員の会)に参加し、すでに現場で働いている図書館員と交流を持つ。
1997年8月: つくば市立中央図書館で図書館実習。一般のカウンターで貸出や返却など、利用者に身近な業務を行うという体験をした。
1999年: 図書館司書採用試験の際、点字受験を認めているところがなかった。その為、地元(埼玉)を中心に各県知事、市町村長、人事委員会、図書館長に当てて点字受験を求めて嘆願書を提出するが、点字受験は認められなかった。同年には公務員試験に一般行政や障害者特別採用枠の事務で受験するが結果を出すことができなかった。
2000年1月: 大阪府が一般枠の司書採用試験を行うことと点字受験が出来ることをホームページで知り、受験。合格し、大阪府に採用される。


2.大阪府立中央図書館での取り組み(ITを中心に)

(1)視覚障害者に対するパソコン利用サービス(2000年10月〜)
OCR(光学的文字読取装置)を用いた活字本の読書、ホームページの閲覧と検索、インターネットやCD−ROM(名称:OL−CD)を使った当館蔵書の検索、図書館所蔵の電子ブックやCD−ROMの利用、点訳ソフトの利用など。

(2)大阪府立図書館蔵書目録和図書編(OL−CD)の画面読み上げソフト対応(2001年3月〜)
国内で発売されている画面読み上げソフトに対応。

(3)大阪府立図書館ホームページの解説と大阪府立図書館蔵書検索及び大阪府Web−OPAC横断検索の音声ユーザーへの配慮(2001年7月)
音声ブラウザへの対応(一部使いにくい部分あり)。

(4)視覚障害者対象IT講習会の実施(2001年度〜2003年度)
初級講習に加え、2003年度から中級講習も開催。

(5)点図ディスプレイの導入(2002年4月)
パソコン画面に表示される絵や写真、文字情報を3072のピンで表示し、それを触って確認することが出来る。

(6)重度障害者に対するインターネットによる郵送貸出申込開始(2003年4月〜)
インターネットで大阪府立図書館の蔵書検索をし、その結果から読みたい本や音楽CDなどを選び、郵送貸出申込が可能になる。

(7)録音図書ネットワーク配信(実証実験)の開始(2003年4月〜2005年3月)

(8)録音図書ネットワーク配信(実証実験)製作協力施設に対するデイジー図書製作研修の開催(2003年8月〜12月)
プレクストーク・ポータブルレコーダを用いてのCDへの直接録音やパソコンを使ったデイジー図書編集のための講習会を開催。

(9)盲ろう者対象インターネット講習会の開催(2004年2月・3月)
点字ピンディスプレイや画面拡大を用いての盲ろう者対象インターネット講習会に4名が受講。

(10)録音図書ネットワーク配信のコンテンツ製作や試行的にデイジー図書製作を行うための協力者の養成(2002年度〜2003年度)
対面朗読などに携わる朗読協力者7名に、パソコンを使ったデイジー図書編集のための講習会を開催。


3.視覚障害者が職場で能力を発揮するための条件

(1)視覚障害者用ハード・ソフトの整備
視覚障害者を雇用した場合、その人に合った機器整備(ハード及びソフト)を個別に行う必要がある。導入に際しては、当人及び訓練機関等と十分協議する。

(2)周りの職員の理解と協力
視覚障害者が必要とするサポートの範囲を正しく理解し、極端に言えば、当人からサポートを求められた際のみ補助に入る形でも構わないと思われる。
また、視覚障害者が一人では出来ない業務などがあった時には、サポートをするだけでなく、今後一人でも出来るように導くような協力が必要である。

(3)業務アシスタント(職場介助者)制度の確立
手書きの読み書きや視力を使う業務など、仕事をする上で多少のサポートがあれば多くの業務に視覚障害者も対応出来る。点字や視覚障害について理解のある人を業務アシスタントとして配置し、業務上必要な情報保障と、独力でこなすことが困難な業務のサポートをすることが求められる。

(4)業務のIT化と障害者が働きやすい環境の整備
業務を帳簿管理からコンピュータ管理にすることによって、今まで健常者のみが扱っていた業務を視覚障害者と共有することが出来る。ただし、システムを視覚障害者にも使いやすくする等の配慮が必要である。

(5)ITの限界
例えば、視覚障害者用の画面読み上げソフトは、アプリケーションによっては全く読み上げられなかったり、適切に読み上げられないものもある。特に、グラフィックや視覚的な情報を多用したもの(図や表など)の内容を理解するのが困難である。その場合には適切な人的サポートが求められる。



Copyright(C)2004 杉田 正幸(Masayuki Sugita)
最終更新日:2004年7月30日