(この文章は医道の日本1996年3月号に私が投稿したものに大幅に加筆修正して作成しました。)
鍼灸に従事している者にとっては「医道の日本」は貴重な情報源である。
視覚障害を持つ鍼灸従事者にとってもこれは同じである。
視覚障害者が本を読む方法として、録音テープによるものの利用、そして点字で製作されたものの利用が考えられる。しかし、これらの製作に関しては、ボランティアの善意に頼っているのが現状である。
以前「医道の日本」の点字版は東京ヘレンケラー協会点字出版局から発行されていたが出版社の事情、抜粋製作、読者が少ないなどの理由で、1991年(平成3年)3月号を持って廃刊となってしまった。テープ版としては茨城県立点字図書館・徳島県点字図書館から、製作されており、全国の点字図書館を通じて利用ができる。
テープ版については点字を読む事に慣れていない者にとっては有効な手段と考えられるが、点字を熟読できる者にとってはいろいろな面で不便な物であるとよく耳にする。
今回、「医道の日本」の点字版の製作については日本最大のパソコン通信点訳ネットワークである「てんやく広場」の中で私を始め、多数の視覚障害者が要望をした。その結果、多くのボランティアグループ・点字図書館からの賛同をいただき、今回「てんやく広場」で共働点訳を行う事となった。
点訳の方法としては以前は点字板で1点ずつ打ち込んでいくか、タイプライターで打ち込んでいくかの方法しか無かった。これだと点訳の誤りに気が付いても、訂正や校正を行う事は困難であった。
しかし、10年前から徐々にパソコン点訳が普及し、パソコンをある程度使いこなせ、ある程度の点字の知識があれば容易に点訳ができるようになった。特に今までとは異なり、点訳した物の校正も容易になった。
「てんやく広場」は1988年、日本IBM(株)から全国41のプリンティングセンター(点字図書館やボランティアグループ)に3年間で点訳用のパソコン1400代の寄贈が行われ、日本IBMの運営・管理の元に点訳データの蓄積が始まった。現在では日本盲人社会福祉施設協議会・情報サービス部会特別委員会「てんやく広場」と位置づけられ、全国の70のプリンティングセンターでパソコン点訳・データの集中管理・運営を行っている。1994年3月からは視覚障害者個人も点字図書館やボランティアグループと同じように「てんやく広場」へ直接アクセスできるようになり、自分の好きな時に、自分の好きな点訳データの利用などが容易にできるようになった。
このパソコンネットワークで1995年9月頃から「医道の日本」の共働点訳の話が持ち上がり、1995年(平成7年)12月号(616号)から共働点訳が開始された。
共働点訳に最初から参加しているプリンティングセンターは、福島県点訳サークルにじの会、埼玉県点訳研究会、兵庫県点訳ボランティアグループ連絡会、福岡市社会福祉協議会ボランティアセンター、宮崎県立視覚障害者センター、鹿児島県点字図書館の6センターである。1997年(平成9年)1月号(629号)より新たに静岡県点字図書館、神戸市立点字図書館、熊本県点字図書館の3センターが加わり9センターにて点訳が行われている。
点訳にはおよそ3週間の日数をかけ、全10巻程度の文書は原本発行後30−40日を目標に「てんやく広場」のホストコンピュータに登録されている。
これらのデータは視覚障害者が直接「てんやく広場」から入手できるのはもちろんの事、全国の70のプリンティングセンターを通じて点字打ちだししてもらい、利用する事ができる。
今回、医道の日本社編集部には共働点訳にさいしてボランティアが使用する9冊の原本の提供をいただき、点訳についても快く承諾いただきました。また、この共働点訳の要望に対して、「てんやく広場」点字班のみなさんにはいろいろな調整をしていただき感謝しています。ここに、今回協力して下さった全てのみなさんに改めて感謝の意を表します。